Books

図書館に行って, 『共感の時代へ — 動物行動学が教えてくれること』(de Waal, Frans. 柴田 裕之[訳]. 紀伊國屋書店, 2010) 『群れのルール — 群衆の叡智を賢く活用する方法』(Miller, Peter. 土方 奈美[訳]. 東洋経済新報社, 2010) 『〈反〉知的独占 — 特許と著作権の経済学』(Boldrin, Michele & Levine, David K. 山形 浩生・森岡 桜[訳]. NTT出版, 2010) を借りてきた…

November 26, 2010 · Ryusuke KIKUCHI <ryusuke.kikuchi@gmail.com>

数覚とは何か? --- 心が数を創り、操る仕組み

『数覚とは何か? — 心が数を創り、操る仕組み』(Dehaene, Stanislas. 長谷川 眞理子・小林 哲生[訳]. 早川書房, 2010)についてのメモ. ラットはかなり正確さには欠けるが,数の推量システムを備えているように見える1. しかし,それは人間が持っている計算システムとは異なるもののようである. 例えば,A, Bいずれかのバーを要求された回数だけ連続して押すと報酬を得る2ことができるように十分に訓練されたラットであっても,安全策を取るように要求された回数よりもわずかに多くバーを押すことがあり,それは試行ごとにばらつきがあった. その「ばらつき」はラットが見積もるべき数が大きくなるにつれて増加した. Piaget3に始まる「構成主義」によれば,人間の子供の論理・数学能力は,外界の規則性を観測し,それを内在化し,抽象化することにより,心の中に徐々に構成されていくものであり,出生直後の新生児の脳はどんな概念的知識もまったく存在しない白紙にすぎないとされる. そして,新生児は単純な感覚運動装置と汎用的学習メカニズムを与えられているにすぎず,それを利用して環境と相互作用しながら,自分自身を徐々に構成していく. 構成主義は教育システムに多大な影響を与えてきており,(算数・数学)教育に携わる人々は,子供がPiagetの想定した段階を決まった順番で移行していくのを「待って見守る」という態度を植え付けられてしまった. しかしながら,現在,我々は構成主義が間違っていることを知っている. 例えば,出生直後の新生児でさえ数に関する真の心的表象を欠いているわけではない. Piagetらが好んだ課題は実験者と被験者の間の対話に依存しており,動物実験に似た状況に子供を置いた場合や言語に関与しない方法では,子供は(Piagetの段階以上の)数の能力を存分に発揮する. 構成主義が間違っているとはいえ,幼児が数に関する天賦の才を持っているというわけではない. 幼児は確かに数の能力を持っているが,その能力はかなり初歩的な算術に限られる. 例えば,1歳以下の幼児でも2個と3個の物体を含む実験であれば,それがどんなものであってもそれらを弁別できるが,3個と4個の弁別についてはたまにしか成功しない4. つまり,1と2と3に関する正確な知識しか持ち合わせていないように見える. 人間が一度に把握できる対象の数には厳密な制約があることが1世紀以上前から知られている. 交点の数を把握する実験において,1から3までは反応時間がゆるやかに上昇するが,4以上になると反応時間が急激に上昇するだけでなく,間違いの数も同様に上昇する5. 数えないで数を把握する能力は「スービタイジング(subitizing)」能力と呼ばれているが,現在のところ,これを説明する決定的な理論は存在しない. 就学前の子供達が自分で発見する最初の計算アルゴリズムは,ふたつの集合の基数を全て指で数え上げることにより,足し合わせることである. 例えば,2と4を足すには,まず2本の指を順番に上げることにより最初の数字である2を数える. 続いて,指を4本上げることで2番目の数字である4を数える. 最後に,上げた指を全て数えることにより合計の6に達する. そのうち,ほとんどの子供達は両方の数を数え直さなくても良いことに気づく. 「2 + 4」を計算するには,2から始めて「3, 4, 5, 6」と言えば良いことに気づく. さらには,この方略を2つの数字のうちの大きなほうから始めれば良いことに気づく. つまり,「2 + 4」を「4 + 2」に書き換えて計算を行う. これは,就学前のほとんどの子供達の計算のもとになっている標準的アルゴリズムである. つまり,ほとんどの子供6は加法の可換性を理解している. (中略) まとめ 人間の赤ちゃんは生まれながらに,物体を個別化し小さな集合に含まれる数を抽出するメカニズムを備えている. この「数覚」は動物にもあり,それゆえに言語とは独立で長い進化の歴史を持っている. 子供では,数の推定,比較,数えること,単純な足し算と引き算はすべて,明確な指示なしに自然に現れる. 脳の両半球の下頭頂野は数量の心的操作を司る神経回路を持っている. 最後に著者自身がきちんとまとめをしてくれているので,気になる部分だけをメモ… ...

November 26, 2010 · Ryusuke KIKUCHI <ryusuke.kikuchi@gmail.com>