進化のなぜを解明する
『進化のなぜを解明する』(Coyne, Jerry A. 塩原 通緒[訳]. 日経BP社, 2010)についてのメモ. 現代進化論を理解するのは難しいことではない. それは「地球上の生命は35億年以上前に生存していたひとつの原始的な種 — おそらくは自己複製分子 — に始まり,それがいつしか分岐して,多くの新しい種を生み出すというかたちで漸進的に進化したのであり,そのような進化的変化のほとんど(すべてではないが)を実現させたメカニズムが自然淘汰である」という,たったひとつの文に要約できる. 自然淘汰は名工ではなくむしろ下手な修繕屋である. 寄生されたり病気にかかったりする動植物はすべて適応の失敗を表した例である. 絶滅した全ての種もやはり適応の失敗と言えるが,その割合は歴史上存在した種の99%以上に及ぶ1. 科学者は,研究室での多数の実験に基づいて突然変異はランダムに起こると結論づけている. この「ランダム」という言葉には厳密な意味があるのだが,(当の生物学者ですら)その意味を取り違えていることがある. 突然変異はDNA複製のエラーにすぎない. 突然変異の大半は,有害であるか,何も影響がないか,のどちらかで,ごく一部だけが結果的に有益となる. 砂丘に棲むマウスにとって砂の色に近い色の毛皮を持っているほうが有利だが,そうした有益な突然変異がそれらのマウスに起こる確率は他の場所に棲むマウスに起こる確率よりも高いわけではない. ダーウィニズムに対する最も一般的な誤解は「進化では全てが偶然に起こる」というものである. 進化学者2は誰一人として自然淘汰が偶然に基づいているとは言っていない. 進化の材料である個体間の多様性は偶然の突然変異によって生じる. これらの突然変異は,それが個体にとって良いか悪いかに関係なく,行き当たりばったりに起こる. しかし,そうして生じた多様性を自然淘汰がフィルターにかけるからこそ,適応が果たされる. 多くの生物学者は進化を「ある個体群のなかでの対立遺伝子(ある遺伝子の別々の形態)の比率が変化すること」と定義している. このような進化的変化のプロセスは自然淘汰だけではなく「遺伝的浮動」3によっても生じる. すべての個体は各遺伝子のコピーを2つ持っていて,その2つは同一なこともあれば違っていることもある. 有性生殖が行われるたびに,その一組の遺伝子のどちらかひとつが両親それぞれから子に受け渡される. どちらの遺伝子が次世代に伝わるのかは五分五分の確率である. 結局のところ,親の遺伝子は毎世代くじに参加しているようなもので,当たりが出れば遺伝子が次世代に送られる. この遺伝子サンプリングはコイントスのようなもので,1回コインを投げて表が出る確率は50%だが,コインを投げる回数が限られていればその確率が50%から外れる確率はかなり高い4. このように異なる対立遺伝子の比率が,全くの偶然によって時間とともに変化することを「遺伝的浮動」と呼ぶ. 遺伝的浮動の影響は小さい集団においては影響が大きく,急速な進化を引き起こすことがある. 進化生物学で「種」は「繁殖面で他のグループと隔離された相互繁殖する自然個体群のグループ」と定義される. 種は進化上の偶然である. 生物の多様性にとって非常に重要な「一群」は,それらが多様性を深めるから進化するのではなく,生態系のバランスをとるために進化するわけでもない. それらはただ,空間的に隔離された個体群が別々の方向に進化したときに生じる遺伝的隔壁の結果として必然的に現れるものである. このように地理的な隔離を種の起源における最初のステップとみなす考えを「地理的種分化」という. 地理的種分化に対し,地理的障壁がない状態で起こる種分化は「同所性種分化」と呼ばれ,限定された非常に狭いエリアのなかで新しい種が生じることがあることが指摘されてきた. その原因として考えられるのは倍数体の種分化である. ある調査においては,顕花植物全ての種の1/4が倍数性のプロセスに通じて形成されたと見られており,珍しい現象ではない. しかし,倍数体の植物は多いが,倍数体の動物は非常に少なく,しかもその多くは無性生殖である. これは動物が自家受精できないことと関係しているのかも知れない5. 原題が,“Why Evolution is True"であるように,進化論が科学的事実であるということが丁寧に説明されている. ...