凡才の集団は孤高の天才に勝る --- 「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア
『凡才の集団は孤高の天才に勝る — 「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア』(Sawyer, Keith. 金子 宣子[訳]. ダイヤモンド社, 2009)についての簡単なメモ. 創造性,イノベーションの科学分析の専門家である著者(Sawyer, Keith)が研究で得た教訓は「新たな発想や閃きを得るための特別な秘訣や秘密はない」ということ. イノベーションは現場のコラボレーションから即興的に生まれることがほとんどである.そして,それを計画して起こすことはできず予測することも難しい.ただし,事前に多少の計画を立てておくと,コラボレーションの効率は高まる.だが,計画に時間をかけすぎるのは良くない. 即興的コラボレーションの効率は良くない.しかし,この効率の悪さこそが結果的にイノベーションとして結実する. 著者の指導教官であるMihaly Csikszentmihalyiは,優れた創造力をもつ人びとが高い創造性を発揮するときに起こる「自分の行動を全て支配しているという感覚があり,自己と環境の差も,刺激と反応の差も,過去・現在・未来の差も感じない」という状態を「フロー」と名付けた.著者は創造的なグループにおいても「グループ・フロー」といえる状態が存在することを発見した. グループ・フローのためにはメンバー全員が(グループの)目標に対する共通理解を持たなければならないが,メンバー間の相互作用が刺激的であることも必要である.このため,同じメンバーでの長期間のコラボレーションは,やがてイノベーションをもたらさなくなる. コラボレーションは魔法ではないので,コラボレーションさえすれば誰もが創造的になるというわけではない.創造性やイノベーションを必要としない労働集約的な仕事には適さないし,メンバーの選び方,コラボレーションの進行方法,(メンバーの)文化についていくつかの重要なルールがある.例えば,ブレインストーミングの効果を上げるためには,ブレインストーミングがしばしば開催され,それが業務の一環となっているという文化が必要であり,たまにブレインストーミングを行うだけで効果が上がるとは考えないほうが良い. ライト兄弟,モールス,ダーウィンらのイノベーションは「(個人の)突然の閃き」1と思われがちだが,他の研究者とコラボレーションしながら,多くのアイデアを考察・実験しては捨てるというプロセスを繰り返すことで結論に辿り着いている. 創造性に関する研究は「懸命な努力」,「コラボレーション」,「ある分野への深い理解」が創造力を高める要因であることを示している.これまでの創造性研究の最も実りある発見は「10年ルール」である.これは,少なくとも10年の懸命な努力と実践がなければ,高いレベルの業績はあげられず,偉大な創造はにもつながらないということである. Amazonにも「日本語版のタイトルがひどい」という書評があるが,その通りタイトルはミスリード.しかし,内容はグループ・コラボレーションの可能性だけでなく限界も示されており,結構まともだと思う.きちんと読めば「10年ルール」は創造的な業績を求める場合には有効だが,どんな仕事でも我慢して10年続けるべきであると言っているわけではないこともわかるだろう… ...